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Image by Graham Holtshausen

惑星探査 | Planetary Exploration

惑星を理解するには、直接に研究対象の惑星に探査機を飛ばして計測を行うことが最も効果的です。あるいは、望遠鏡を用いて観測対象の惑星を分析することも非常に有効です。当研究室では、これまで月や彗星の探査機計画や望遠鏡観測計画に参画して研究を進めてきましたし、今後も月、火星、彗星などの探査や望遠鏡観測を行っていく予定です。ただ、探査計画への参画と一言で言っても様々な形態があります。当研究室では、既に行われた惑星探査データを解析して有意義な情報を抽出するタイプの研究から、探査計画の運用や一次データ解析に関与するタイプの活動、さらには将来の探査計画に使われることを目指して探査機搭載用の測定機器を開発する基礎実験など、いろいろなレベルでの研究活動を行っています。

​はやぶさ2

はやぶさ2 光学航法カメラ (ONC)の開発と運用、データ解析

太陽系にはC型小惑星と呼ばれる非常に低い反射率を持つ小惑星が多く存在し、生命の起源となる物質を地球に供給した可能性がある天体として注目されています。はやぶさ2は近地球軌道にある直径1 kmの小惑星リュウグウから、C型小惑星のサンプルを世界で初めて地球に持ち帰りました。 本研究室では、はやぶさ2に搭載されている光学航法カメラ群 (二つの広角モノクロカメラ(ONC-W1, W2)と紫外(390 nm)から近赤外(950 nm)の望遠7バンド多色カメラ(ONC-T); Kameda et al., 2017)の開発と運用から、科学データ解析までを行なっています。 はやぶさ2が2018年6月にリュウグウに到着してから1年5ヶ月間、ONCは小惑星の表面写真を撮り続けました。ONCのデータは国内外の様々な研究に利用され、リュウグウの全球進化の描像を明らかにしています。中でも本研究室で得られた主要な成果をご紹介します。 天体表面に存在するクレーターは年代を推定するために非常に重要な地質記録です。なかでも、古くに形成された100 mサイズのクレーターはまだリュウグウが小惑星帯にいた1000万年から1億年も前に形成したと推定されました (Sugita et al., 2019)。更に、比較的小さいクレーターの数密度から、長い歴史の中でリュウグウの表層物質が移動していたことも明らかになりました (Sugita et al., 2019; Cho et al., 2021; Takaki et al., 2022)。 ONC-Tによって得られた表層の反射スペクトルの情報から、地上望遠鏡で観測された他の小惑星とリュウグウの関係が明らかになりました。例えば、全球の反射スペクトルから、リュウグウの起源となる小惑星の族はポラナあるいはオイラリア族に限られることが分かりました (Sugita et al., 2019)。また、リュウグウを構成する大半の暗い物質とは異なるスペクトルを持つ明るい岩塊も発見されました。これらの異質な岩塊のスペクトルは、はやぶさ初号機が探査したイトカワが属するS型小惑星と整合的であり (Tatsumi et al., 2021a)、リュウグウの母天体は少なくとも2回S型の小惑星と天体衝突していたことが示唆されました (Sugimoto et al., 2021)。更に、リュウグウの表層は長い年月の間宇宙空間に晒されて風化することで、徐々に反射スペクトルが変化しており(Sugita et al., 2019; Morota et al., 2020)、極域には比較的風化していない物質が露出していることも発見されました (Tatsumi et al., 2021b)。 ONCは、Small carry-on impactor (SCI)によってリュウグウに作られた人工クレーターの特定と観察の役割も果たしました (Arakawa et al., 2020)。クレーター形成前後の画像の比較から小惑星の表面進化を観測し(Honda et al., 2021)、これまで小惑星の表面進化を駆動すると考えられてきた地震波は、リュウグウでは低強度の影響で伝播しづらいことを明らかにしました (Nishiyama et al., 2021)。 このようなリュウグウから得られた知見を元に、他の小惑星の軌道進化や表層更新などのプロセスに対する理解が進んでおり、正に分野のフロンティアを開拓しています。また、時期を同じくして別のC型小惑星であるべヌーもNASAのOSIRIS-RExミッションによって探査されました。本研究室は、主にリュウグウとべヌーの比較においてOSIRIS-RExチームとの共同研究を進めています (DellaGiustina et al., 2020; Lauretta et al., 2022)。 はやぶさ2はリュウグウを離れて既に何年も経過しましたが、ONCのデータを元にした新たな科学成果はまだ盛んに創出されています。特に、サンプル分析から得られたリュウグウ物質の知見から、ONCデータを新たな角度で解析・解釈することができるようになってきました。また、欧州のHERAミッションを始め、近い将来小惑星探査機が複数打ち上げ予定であり、このような次世代探査の計画にあたってもONCによる最新の小惑星画像が注目されています。 ONCで撮られたリュウグウの全画像はJAXAのデータアーカイブシステム(https://data.darts.isas.jaxa.jp/pub/hayabusa2/onc_bundle/browse/)に公開されておりますので、是非ご参照ください。 現在はやぶさ2は次の小惑星に向けて宇宙を航行中です。長年にわたる航行期間にも、ONCは星・惑星・銀河面の観測によって装置の機上校正を継続的に行なっており(Suzuki et al., 2018; Tatsumi et al., 2019; Kouyama et al., 2021; Yamada et al., 2023)、次の小惑星でも高信頼度のデータを撮れるよう万全を期しています。更に、航行中は黄道光や系外惑星のトランジット観測など挑戦的な天文観測にも成功しています。 (文責 湯本) 参考文献 [14] Cho, Y., Morota, T., Kanamaru, M., Takaki, N., Yumoto, K., Ernst, C. M., ... & Sugita, S. (2021). Geologic history and crater morphology of asteroid (162173) Ryugu. Journal of Geophysical Research: Planets, 126(8), e2020JE006572. [13] DellaGiustina, D. N., Burke, K. N., Walsh, K. J., Smith, P. H., Golish, D. R., Bierhaus, E. B., ... & Yumoto, K. (2020). Variations in color and reflectance on the surface of asteroid (101955) Bennu. Science, 370(6517). [12] Kameda, S., Suzuki, H., Takamatsu, T., Cho, Y., Yasuda, T., Yamada, M., ... & Sato, M. (2017). Preflight calibration test results for optical navigation camera telescope (ONC-T) onboard the Hayabusa2 spacecraft. Space Science Reviews, 208(1-4), 17-31. [11] Kouyama, T., Tatsumi, E., Yokota, Y., Yumoto, K., Yamada, M., Honda, R., ... & Sugita, S. (2021). Post-arrival calibration of Hayabusa2's optical navigation cameras (ONCs): Severe effects from touchdown events. Icarus, 360, 114353. [10] Lauretta, D. S., Adam, C. D., Allen, A. J., Ballouz, R. L., Barnouin, O. S., Becker, K. J., ... & Yumoto, K. (2022). Spacecraft sample collection and subsurface excavation of asteroid (101955) Bennu. Science, 377(6603), 285-291. [9] Nishiyama, G., Kawamura, T., Namiki, N., Fernando, B., Leng, K., Onodera, K., ... & Iijima, Y. (2021). Simulation of seismic wave propagation on asteroid ryugu induced by the impact experiment of the hayabusa2 mission: Limited mass transport by low yield strength of porous regolith. Journal of Geophysical Research: Planets, 126(2), e2020JE006594. [8] Sugimoto, C., Tatsumi, E., Cho, Y., Morota, T., Honda, R., Kameda, S., ... & Sugita, S. (2021). High-resolution observations of bright boulders on asteroid Ryugu: 2. Spectral properties. Icarus, 369, 114591. [7] Sugita, S., Honda, R., Morota, T., Kameda, S., Sawada, H., Tatsumi, E., ... & Tsuda, Y. (2019). The geomorphology, color, and thermal properties of Ryugu: Implications for parent-body processes. Science, 364(6437), eaaw0422. [6] Morota, T., Sugita, S., Cho, Y., Kanamaru, M., Tatsumi, E., Sakatani, N., ... & Yokota, Y. (2020). Sample collection from asteroid (162173) Ryugu by Hayabusa2: Implications for surface evolution. Science, 368(6491), 654-659. [5] Takaki, N., Cho, Y., Morota, T., Tatsumi, E., Honda, R., Kameda, S., ... & Sugita, S. (2022). Resurfacing processes constrained by crater distribution on Ryugu. Icarus, 377, 114911. [4] Tatsumi, E., Kouyama, T., Suzuki, H., Yamada, M., Sakatani, N., Kameda, S., ... & Tanabe, N. (2019). Updated inflight calibration of Hayabusa2's optical navigation camera (ONC) for scientific observations during the cruise phase. Icarus, 325, 153-195. [3] Tatsumi, E., Sugimoto, C., Riu, L., Sugita, S., Nakamura, T., Hiroi, T., ... & Matsuoka, M. (2021a). Collisional history of Ryugu’s parent body from bright surface boulders. Nature Astronomy, 5, 39-45. [2]Tatsumi, E., Sakatani, N., Riu, L., Matsuoka, M., Honda, R., Morota, T., ... & Sugita, S. (2021b). Spectrally blue hydrated parent body of asteroid (162173) Ryugu. Nature communications, 12(1), 1-13. [1]Yamada, M., Kouyama, T., Yumoto, K., Tatsumi, E., Takaki, N., Yokota, Y., ... & Sugita, S. (2023). Inflight calibration of the optical navigation camera for the extended mission phase of Hayabusa2. Earth, Planets and Space, 75(1), 36.

観測探査_湯本_03

はやぶさ2に搭載されている望遠マルチバンドカメラ (ONC-T; Image credit JAXA)

ONC-Tで撮影された直径1 kmのC型小惑星リュウグウの全球画像 (hyb2_onc_20180911_134656_tvf)

サンプル採取直前に撮られたONC-W1の画像。探査機自身の影が小惑星表面に投影されている。(hyb2_onc_20190221_222815_w1f)

小惑星リュウグウからの帰還粒子の多色反射分光測定

 

本研究室では、はやぶさ2が地球に持ち帰ったリュウグウ試料の初期分析の一環として、ONC-Tが計測した7つの波長帯のうち、紫外〜可視の6つの波長帯での分光イメージング測定と、ステレオ撮影による形状測定を行うことができる装置を開発しました(Cho et al., 2022)。この装置は数mm大のリュウグウの粒子を数μm/pixの解像度で撮影することができ、はやぶさ2によるリモートセンシング観測と帰還試料の直接比較を初めて可能にしました。
反射分光測定の結果、リュウグウの粒子は可視域で約2%の反射率という非常に暗い物質であることが分かりました。これは、ONC-Tによるリモートセンシング観測の結果と整合的で、これまで見つかってきた隕石よりも暗いものとなっています(Yada et al., 2021)。
本装置で測定したリュウグウ試料のデータは
JAXAのデータベースシステムに公開されておりますので、是非ご参照ください。

参考文献

[2] Cho, Y. et al., 2022. Development of a multispectral stereo-camera system comparable to Hayabusa2 optical navigation camera (ONC-T) for observing samples returned from asteroid (162173) Ryugu. PSS, 221, 105549.

[1] Yada, T. et al., 2021. Preliminary analysis of the Hayabusa2 samples returned from C-type asteroid Ryugu. Nature Astronomy. https://doi.org/10.1038/s41550-021-01550-6

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本測定用に開発された多色分光・形状測定装置

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本装置で撮影されたA0207帰還粒子の反射率画像(A0207_MBS_img_file_if_map)

MMX (Martian Moons Exploration)探査

フォボス着陸ローバーに搭載されるラマン分光計の開発

2024年に打ち上げられる​JAXAの火星衛星探査機MMXには、フォボスを走行しながら地質調査を行うローバーが搭載されます(右図)。このローバーには重量1.5 kgほどの小型ラマン分光計が搭載され、フォボスの地表の構成鉱物を同定します。しかしラマン散乱光は微弱で、レーザーを非常に細いビーム径まで集光して測定対象に照射することが必要です。

 本研究室では、ドイツ航空宇宙センター(DLR)およびスペイン国立航空技術研究所(INTA)と協力し、レーザーを地表に1ミクロンの距離精度で集光する可動式装置を開発しました。これは、MMX母船に取り付けられた試料採取装置を除くと、世界で最もフォボスに近づく科学機器だと自負しています。(8 cm, ピントが合わなくて良いなら2 cmまで近づける。)

参考文献

Cho et al. (2021) Earth, Planets and Space 73, 232-242 

Ulamec et al. (2023) Acta Astronautica 210, 95–101. 

スクリーンショット 2023-07-08 15.58.49.png
AFS-FMを用いたラマン測定の様子.JPG
図2.png

惑星探査用装置の開発

惑星探査用レーザー誘起プラズマ発光分光(LIBS)装置の開発

​Laser-induced breakdown spectroscopy (LIBS)は、高強度のパルスレーザーによって測定対象をプラズマ化させ、その発光スペクトルから対象の元素組成を調べる手法です。数メートル先の試料であっても分析が可能で、迅速に元素分析可能(1分程度)であるため、運用時間や移動距離の制約がある惑星探査に向いています。実際に、米欧中の火星探査機に搭載されています。

 当研究室では、小型のLIBSを惑星探査機に搭載するための研究を行っています。特に、月面探査への応用を目指した原理実証研究や宇宙用装置の開発を進めています。例えばYumoto et al. (2023b)では、岩石中に含まれる水素をLIBSによって定量できることを示しました。この結果は、LIBSを探査機に搭載することにより、月の極域に存在するかも知れない水氷を迅速に測定できることを意味します。

 LIBSによる分析能力の拡張と宇宙用装置開発を両輪として研究を進めることで、2020年代の月探査に杉田研発の装置を搭載することを目指します。

最近の研究成果

Yumoto​ K., Cho Y., Kameda S., Kasahara S., Sugita S. (2023) In-situ measurement of hydrogen on airless planetary bodies using laser-induced breakdown spectroscopy, Spectrochimica Acta Part B: Atomic Spectroscopy 205, 106696.

惑星探査用カリウム・アルゴン年代計測装置の開発

準備中

​火星大気ネオン分析用装置の開発

​火星の大気中に微量に存在するネオンガスは、火星の大気の起源を調べる上で重要なトレーサーです。これまでの火星探査機による計測では、火星大気中に遥かに大量に存在するアルゴンの妨害によってネオンの量や同位体比が正確に求まらない、という問題がありました。一方で、火星隕石にごく微量に含まれるネオンは、隕石が宇宙空間を飛行している間に宇宙線によって生成されるネオンによって汚染されており、元々の火星大気での同位体比まで精度良く決定できないという課題がありました。

 そこで本研究室では、将来の火星探査機への搭載を目指し、ネオンとアルゴンを分離する機構の開発を行っています。これまでの研究で、ネオンとアルゴンを高い効率で分離できる膜素材を突き止めることに成功しました。現在、宇宙機搭載に要求される過酷な条件でもこの膜素材に問題が起きないかを確認する実験を進めています。当グループ笠原研、東大地震研、JAXA宇宙科学研究所、JAMSTEC、山形大学との共同研究です。

最近の研究成果

Miura Y.N., Okuno M., Cho Y., Yoshioka K., Sugita S. (2020) Ne-Ar separation using a permeable membrane to measure Ne isotopes for future planetary explorations, Planetary Space Sci. 193, 105046.

時間ゲート型ラマン分光計の開発

​パルスレーザーの照射タイミングとカメラ露光時間をナノ秒レベルで同期させることで、純粋なラマン散乱光を観測できる「時間ゲート型ラマン分光計」と呼ばれる装置を開発しています。NASAのPerseverance火星探査機に搭載されており、現在も火星で運用中です。Perseveranceと同等の性能を有する本装置を用いた火星表層の鉱物組成データの解釈に向けて様々な試料を測定しています。

最近の研究成果

[3] Tabata, H., Cho, Y., Yumoto, K., Mori, S., Hyuga, H., Sugita, S., Sekine, Y.,

  Matsuki, A., Fukushi, K.,Nanosecond time-gated Raman spectroscopy of clay

  minerals for the reconstruction of water chemistry on early Mars, JpGU 2023,

  (Chiba, Japan, 2023.5).
[2] Tabata, H., Cho, Y., Yumoto, K., Mori, S., Hyuga, H., Sugita, S., Matsuki, A.,

  Fukushi, K., Time-gated Raman spectroscopy of clay minerals for the

  reconstruction of water chemistry on early Mars, The 82nd Fujihara Seminar,

  (Naeba, Japan, 2023.2).
[1] Tabata, H., Cho, Y., Yumoto, K., Mori, S., Hyuga, H., Sugita, S., Matsuki,

  A., Fukushi, K., Development of a nanosecond time-gated Raman spectrometer

  for the reconstruction of water chemistry on early Mars, Annual Meeting of

  the Japanese Society for Planetary Science 2022, (Mito, Japan, 2022.9).

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観測探査_田畑.jpg

Perseveranceローバ搭載装置を模擬した時間ゲート型ラマン分光計

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